2019年度(令和元年度)第2回授業
「能楽の楽しみ方」
講師 中森 貫太先生 鎌倉能舞台・観世流シテ方
実演協力 善竹 富太郎先生 大蔵流狂言方
令和元年7月6日(土)10時~12時
鎌倉芸術館小ホール
(授業レポート)
“かように候ものは、相模の国鎌倉の住人、中森貫太と申すものにて候~”(謡曲調で)
能楽はユネスコが無形文化遺産として選んだ世界で第1号の演劇で、世界一古いお芝居です。能で使う横笛は、乾燥させるのに1年、音を出すのに20年かかります。
能では、役が女性や神様の場合、能面をかぶります。能面の角度によって表情が変わります。
能は、室町時代に、京都や奈良のお寺や神社の周りに、「座」と呼ばれる小さい劇団ができたのが始まりです。
奈良の興福寺には座が4つあり、その中のひとつ「結崎座 」が、京都に派遣して芝居を打たせた。その噂を聞きつけた時の将軍、足利義満が、おしのびで芝居を見に行き気にいった。そして支援することになり、発展していきます。
能の観客は武士、庶民は歌舞伎に
それがきっかけで、能を見るお客が一般の人たちから武士に変わり、200年間、江戸時代まで能は武士達が見て楽しむものとなっていく。
そのころから始まった参勤交代で、地方の殿様も将軍の前で、能を舞うことになり、シンプルになっていきます。そして地方の言葉のなまりも、能の台本が教科書となって標準化しました。
能はお侍さんたちがやるお芝居になり、庶民の娯楽として生み出されたのが歌舞伎です。
江戸時代が終わって明治になったところで、武士が消え、能は滅びる運命にありました。
ところが日本政府は海外の国と付き合うため、日本独自の演劇などで、おもてなしをする必要があると考え、国劇として能楽と歌舞伎、そして人形劇の文楽を決め、保護するようになった。
能と文楽はそのスタイルを守り、歌舞伎は、どんどん変化しています。
般若は女性のやきもちの顔
この人気能面の般若を見てください。これは女性の面です。女性がやきもちやくとこういう顔になる。それを具現化された顔が、この般若です。
この装束も独特な文化です。身分の高い人が着るので装束と言います。唐織は1枚織るのに3、4ヶ月かかります。今でも全部、手織りです、女の人の帯2本半の生地だから重い。100年ぐらい経つと一番いい色になる。これは50年ぐらいしかたっていません。
(休憩)
(休憩の後は、選ばれた学生12人が舞台に上がり、中森先生と大藏流狂言方の善竹富太郎先生の実技指導により、狂言のセリフを練習して、この日の授業は修了となる)
◇ 質問コーナー ◇
Q 5年生(女子) 装束はどういう感じに色が変わったんでしょうか。
中森先生 もっと色がきつかった赤色が、レンガ色になって落ち着いてきました。青も、あざあざしい青だったが、ねずみ色っぽくなってくる。それが舞台では美しく見える感覚になります。
Q 5年生(女子) 大きな声を、ずっと続けて出しているのは大変ですか。
中森先生 声って鍛えるものなんですね。大きな声が出ないとどうにもならない。力いっぱい腹から声を出し、鍛えてゆくことで、ノドに負担がかからない、力加減がわかってくるようになるんで、長く続けることができます。
Q 5年生(女子) 装束は何で三角、四角ぽい形をしているのですか。
中森先生 褄とよばれるこの部分がものすごく長いです。普通の着物はすとーんとした感じになるけれど、これは着た時に巻き付けて、端がぴ~んと上がってこないと形が悪いので、長くするためにわざと独特の仕立てになっています。
Q 6年生(女子) 般若の能面に開いている穴は、
お面によって違うんでしょうか。
中森先生 動きの早いお芝居に使う能面は、比較的目が大きくなる傾向にあります。道成寺みたいに女の人が、鐘のまわりをフルスピードで舞わなければならないようなものは、訓練と技術が必要になってくる。お殿様に危ない事をさせられないので、早く動くようなものは、目とか鼻の穴を大きくして、よく見えるようにするとか、いろんな工夫がされています。
Q 5年生(男子) 劇の時間は、1本どれぐらいですか。
中森先生 狂言は短いものは5分ぐらいから、長いもので1時間。能は短いもので15分、長いもので2時間半、150分以上かかるものもあります。善竹先生の大蔵流が200曲、観世流が209曲あります。
Q 4年生(女子) 息が足りなくなった時はどうするんですか?
中森先生 息継ぎは技術なんですよ。日本語でも意味の通らないところで息を吸っちゃうと、お客さんが、何を言っているのかわからなくなる。どんな長いセリフでも、文章として切るところで息を継ぐという動作が必要になります。
Q 5年生(女子) さっき長い練習した文は何という意味なんですか?
中森先生 高砂の浦から住江に向かって船出を祝う文章です。最後にお願いがあります。歌舞伎、落語、文楽といったものに興味をもってチャレンジしてください。鎌倉では子ども能が今月から始まります。鎌倉能舞台で金、土に稽古して来年3月以降、衣装を着て、きちんとしたお能をやります。鎌倉市は、6年生を対象に鎌倉子ども狂言教室もひらいています。ぜひチャレンジしてください。(了)
(文責=横川和夫、写真=島村國治)