2019年度(令和元年度) 夏期特別講座レポート
「養老学長との特別対話ゼミナール」
講師:養老 孟司先生(子ども大学かまくら学長、東京大学名誉教授、解剖学者)
2019年7月23日10:00~12:00
鎌倉市福祉センターのボランティア活動室
受講生;31名
◆学習のねらい
特別対話ゼミナールは、子ども大学かまくらの養老学長から「これまでのように大勢の学生に対し私が一方的に話すのではなく、少人数の学生と対話してみたい」との希望・提案が出され、今回、新たな試みとして実施されるものです。
この 講座の受講を希望した学生からは、申し込みの時に、「取り上げて欲しい話題」として32件の回答をいただいており、養老学長にお伝えしてあります。どのような対話ゼミナールが展開されるのか、楽しみです。
◆授業スケジュール
・ 9:30~ 学生受付
参加確認と参加費の支払
会場の各人の名札位置に着席
・10:00~11:50
学長と学生の対話によるゼミナール
(途中10分程の休憩)
・11:50~12:00
学生による受講アンケート記入
子ども大学かまくらの学長である養老孟司先生には、発足以来これまで、授業・講演を毎年、原則として入学式の日に行っていただいてきました。しかし、2019年度からは先生の希望で、少人数形式のゼミナール形式に変更することになりました。
子ども大学かまくらの学生の中から参加者を募集し、今回は36人の応募者から抽選で参加者31人が決まりました。参加者にはあらかじめ養老先生に質問を出してもらいました。今回初めての対話ゼミナールは、その質問に養老先生が回答する形で始まりました。
虫ってなんだ
最初の質問は「私は虫が大好きです。お母さんはあまり好きではないので、うちの中に入れると怒ります。鎌倉にいる虫で、さわったら危険な虫がいますか」といった内容でした。
養老先生は、このように答えていきました。
「僕らは虫ってまじめに言ってるけど、江戸時代までは漢字で虫偏のついた生き物は、みんな虫だった。蛇とか蛙も虫なんだ。小さな生き物はみんな虫だった。どういうものが昆虫だか知ってるかな」
学生「6本の足がある」「頭とお腹と胴体がある」
養老先生「みな、よく知ってるじゃない。クモはどうなの」
学生「クモは昆虫じゃない」「足が8本」
養老先生「(クモは)頭と胸の境がない。ダニは」
学生「見たことない」
養老先生「ダニは小さすぎて見たことないか。犬を飼っている人いない?うちの猫は、たまにダニをつけてくるよ。耳についていることが多い。血を吸うとパンパンに、まんまるになるから何だかわかりにくい。ダニもクモの仲間ですね。足が8本で、頭と胸の区別がない」
危ない虫はいるの?
養老先生「鎌倉で危ない虫がいるかという質問だけど、僕は今年、家の中で2回やられた。ムカデに右足の小指と、左足の小指と順繰りにかまれた。けっこう痛かった。今日も出てくる時に、目の前を這っていた」
「本当の昆虫の中で、危ないからと、ぎゃあぎゃあ騒ぐのはスズメバチの雄だ。ハチに刺されても大丈夫だけど、100人に1人かな、アレルギーを起こす人がいる。最初に刺された時はいいんだけど、免疫ができると、2回目からは、どんどん血圧が下がってひっくり返る。人により意識がなくなるので、家にいるときは病院に行けばよいんだけど、一人で山にいるときは、意識がなくなると困るでしょ。崖から落ちたりする。それが問題なんですね」
「僕もラオスでヒメアシナガバチにやられてひっくり返ったことがある。小さいハチのくせに刺されて、何が起こるかと言うと、まず景色がきれいに見えるんだよ。輪郭がピンとしてきて、風景がよく見えるようになる。最初はそうなんだが、どんどん進んじゃうと、そのうちに暗いところとシロになる。暗いところは真っ暗になる。それから先はダメになって、気持ち悪くなり倒れる。治るまでに4時間ぐらいかかるけれど、そんなに心配ない。一番怖いのはスズメバチ。でもアレルギーのない人は、いくら刺されても大丈夫、痛いだけだ」
勉強は役に立つの?
こんな調子で、学生と養老先生との対話ゼミナールは続いていきます。
学生からの質問は大きく分けると「虫」「こころ、脳のはたらき」「勉強の仕方、学びとは」「進路の問題」「その他」でした。
「勉強は将来、役に立ちますか」という質問に対して養老先生の答えは…
養老先生「けっこう、気にしているのだね。勉強するのが将来、役に立つと思う人?これは将来にもよるよね。大体、役に立つって何だろう。どう思いますか?何かをやろうと思うと、いろんなことを勉強しなければならないことが、ひとりでにわかるから、一生懸命、勉強を続けるんです」
「僕?ほとんど勉強したことないよ。好きでやってるから、勉強だと思っていない、半分遊んでいるから。虫だってそうだよ。好きじゃなければやらなかった。僕の知り合いで、虫が好きで、虫捕ってて、親も虫捕って、虫を捕るのに勉強なんかいらないと高校でやめちゃって、虫を捕ってたんだけど、ある時に気がついた。外国に行かなきゃ、おもしろくないし、外国に行くと言葉もしゃべらなければいけないし、論文も書かなきゃいけない、と。英語も勉強しなければいけなし、結局、大学に入り直して卒業した人がいるよ」
おもしろいと一生懸命になる
学生「勉強が必要ということ?」
養老先生「仕事によってはね。やりたいことによって、だ。なんにも勉強しないで過ごしているかと言うと、そんなことない。だって職人だってそうでしょ。陶工
だって、ろくろの回し方から、全部勉強しなければならない。勉強って、意味によるんだよ。生きているって、そういうことなんだよ。ただ本当におもしろくて、一生懸命やるのはいいことなんだよ。絶対に役立つ、何かの役に立つという意味ではなく、自分が育つから。君たち、まだ子どもでしょ。大人になるのは単に体が大きくなるだけでない。ものができるようになる。時々考えてください。自分は何ができるだろうか、と。そうすると、何かしなきゃと思うよ。何かできるようになりたいだろう。言っとくけど、おもしろいと一生懸命やる。一生懸命が先になると、つらくなる。おもしろいが先だと、つらくない。やりたいことをやってれば、一生懸命やることになる。さっき、本を読むと夢中になるという子がいたけど、いいんだよ、夢中になるのは。夢中になることが〝モノ″をすることになる。ここで座って、こんなことをやってるのは、よくないんだよ。何かしてればいいんだよ」
こんな調子で養老先生との特別対話ゼミナールは、休憩時間を含めて2時間、あっと言う間に終わりました。
特別対話ゼミナールの詳細は、2020年春に発行予定の記録集Ⅳに収録しますので、楽しみにしていてください。
(文責=横川和夫 写真=島村国修)