2018年度子ども大学かまくら第5回授業
「ドラえもんがやってくる?―ロボット・AIって知ってる?」
講師 尾﨑文夫先生 湘南工科大学教授
2月23日(土) 鎌倉学園星月ホール
(授業レポート)
ドラえもんのすごいところは
ロボットと人工知能(AI)の技術について皆さんと考えたいと思い、やってきました。これは「ドラえもん科学ワールド―ロボットの世界」に出ている最初のマンガの一コマです。ドラえもんのどこがすごいでしょうか。
学生=周りの人がやっていることを認識している
すばらしい。櫛を手に鏡の前で楽しそうにしている様子を見たら、おめかしして、だれかと会いに行くのだと人間にはわかります。ところがロボットや人工知能は、こうした常識に基づいた認識や推測をするのは難しい。ドラえもんは2本足で歩いて、のび太君に話しかけ、言葉を認識できる。だから「すごい」と言われるわけです。
ロボットを動かすための3要素は
簡単に自己紹介します。私は東芝の研究所で、人についてくるロボットや、核融合炉や宇宙用のロボットを研究しました。6年前に湘南工科大学に移り、高齢者を支援するロボットやアンドロイドロボットのソフトウェアの研究をしてきました。今は見守りロボットの研究をしています。
ドラえもんのようにロボットが人間と同じような行動ができるようになるには、周りの状況を知るためのセンサー、その状況を解釈して行動計画を立てるためのコンピュータ、行動するためのモーターなどのアクチュエーター(コンピュータが出力した電気信号を物理的運動に変換する装置)が必要です。
最近の車はセンサーのかたまり
スマホを横に傾けたらセンサーがキャッチして画面も横になります。アイコンを触ると、その裏にあるセンサーで、どこが触られたのかを認識し、対応するアプリを開かせます。
車も今はセンサーのかたまりです。車のフロント部分にある丸い超音波センサーで超音波を発信し、戻ってくるまでの時間を計算して、相手との距離を知ることができます。だから人が車の前を横切ったら、ピーピー鳴って、車は止まります。
この写真はグーグルの有名な自動運転カーです。このほかセンサーは、手を出したら水が出る蛇口、通過したら自動的に点灯する電灯など、さまざまなところに使われています。道の穴ぼこ、障害物もわかるような三次元のセンサーもあり、ロボットや自動車に使われています。
産業ロボットからスタート
皆さんはどんなロボットがあるか知っていますか。
学生=アシモ。ペッパー。シリ。(次々に声があがる)
皆さんはいろいろなロボットを知っていますね。皆さんに配った資料の中にありますが、これはニッサンの車「ノート」の製造ラインで活躍している産業ロボットです。
火花が飛んだりして危険な自動車の溶接作業は、ロボットアームが人間の代わりにやっています。日本ではロボットに親しみを感じるという慣習があり、ロボットには名前がついていて、ロボットが自動車を組み立てています。
人間型のロボットも開発されています。これは46年前の1973年に早稲田大学の加藤先生が開発したロボットで、今のロボットと違ってゴツゴツしています。
昔はどうやったらロボットは動くのかという研究が中心でした。当時は1歩進むのに1分以上もかかりました。それが今はコンピュータの進歩で、難しい計算でもすぐに答えが出せるようになり、人間に近い動作ができるようになってきました。
動くことはある程度できてきたので、現在は周囲を認識して動くにはどうするか、扱う対象物は何かなどの認識技術(人工知能)とロボットの動きを組み合わせるような研究が盛んになっています。
ピョンピョン飛び歩くジャンピングロボット
これはアメリカのマサチューセッツ工科大学で開発した1本足でジャンプができるロボットです。ダイナミックに、しかも安定して動くにはどうしたらいいかを研究したロボットで、ボストンダイナミックス社を創設したマーク・レイバート教授の研究です。ボストンダイナミクス社のロボットの中でも有名なロボットが、このビッグドッグです。4本足で、デコボコのガレキの山でも平気で歩いていくことができます。
野外で大きな荷物を背負って運搬するロボットやムーンウオークもできるロボットも開発されてきました。しかし頭のほう、つまり計画を立て、自分でどうするかを考えるのは、まだまだロボットには難しいのが現状です。
進化するお片付けロボット
次に紹介するのは日本のPreferred Networks(プリファードネットワークス)社が開発したお片付けロボットです。すばらしいのは、お片付けロボットが、目の前にあるものが何であるかを見分けることができるようになったことです。スリッパはゴミ箱に入れずに、揃えます。ウェットティッシュは、棚に置く、つまり、ものを判別して、置いてあった元の場所に戻すことができるようになりました。
動物の動きからロボットをうまく動かす要素を研究するため、色々な動物型のロボットも登場してきました。ドイツの研究所では、鳥の動きを研究して、鳥型ロボットを作ろうとしています。
手の形をしたロボット研究も盛んです。5本の指の滑り具合をチェックするセンサーを使ったり、ドラえもんのグローブのような手で、どうやってものをつかむかという研究も進んでいます。
自動運転車で砂漠を200キロ走行
今、注目されている自動運転車を世界最初に開発したのは、スタンフォード大学のスラン先生です。砂漠で200キロを自動運転で走行する大会で、2年目に完走させました。その後、グーグルに移り、自動運転自動車の開発を主導しました。
このほかドイツでは、産業用ロボットで動かすジェットコースターのようなエンターテイメントが登場しています。どう動くかわからないので、乗っている人は、とても怖いそうです。
(休憩)
休憩時間中に、舞台前で学生により、人の掌の動きに合わせて開閉動作するヒトデ形ロボットと会場人物の映像から人の動きを認識するプログラムのデモが行われた。
ぼやけた数字も鮮明化技術で判読可能に
後半は、人工知能(AI)についてお話します。最近、有名になったのはアルファー碁です。グーグルが開発した囲碁ソフトで、韓国や中国の囲碁の名人と対戦して勝ちました。
「科捜研の女」や「相棒」といったテレビドラマに出てくる映像の拡大鮮明化技術は、実際にはテレビほどにはできていません。しかし、このような技術も人工知能を使って可能となりつつあります。防犯カメラに写る自動車のナンバープレートは、遠くで撮影しているため、ぼやけていて読み取ることが難しかったのです。しかし最近は人工知能のディープラーニングという技術を使い、判読できるようになりつつあります。
だれだかわからないほどの小さい顔の写真も、顔の特色や皮膚のざらざら感を人工知能に覚えさせることで、拡大鮮明化することが可能になってきています。
絵を描き、作曲までする人工知能
皆さんが休憩中に遊んだ人の骨格を認識する人工知能の技術は、肩や目、手の位置を認識することで、人とのインタ―ラクション(やり取り)に使うことが可能です。
これは人工知能のエミーが作った音楽です。エミー、音楽家、そしてバッハ自身が作曲した3つの曲を音楽ホールで聞かせて、「バッハが作曲した曲はどれですか」と尋ねたら、ほとんどの人が、エミーが作曲した曲をあげました。エミーは、それほどバッハの特色を把握しているわけです。
ロボットができないのは芸術だろうと言われてきましたが、人工知能は芸術の分野にも入ってきて無視できない存在になりつつあります。
この写真は人工知能がつくり出した実在しない人の顔です。このように人工知能が勝手に自分でデータを作り、そのデータを学習して、映像を作り出すことが可能になってきたのです。映像を作り出すのに使われている敵対的生成ネットワーク(GAN)という技術は、ここ10年で最大の発明ではないかと言われています。
顔写真から年齢などを識別
顔写真から、その人の性別、年齢、感情、人種などを識別することができます。またある人の顔に他の人の顔を掛け合わせて、新たな顔を作ることも可能です。
また二次元の写真から三次元の立体感のある画像を作り出すこともできます。好きなアイドルの写真を、そのホームページにアップすると立体的な像ができあがります。
グーグルやマイクロソフトは、膨大な数の写真の中から、指定された写真を検索する技術を開発して実用化しています。
このほか絵を描くのを手助けするソフトや、テキストを打ち込むと自分の好みに合った声で読み上げてくれるソフトも開発されています。
ニューラルネットとは
最後になってしまいましたが、今紹介してきた人工知能のベースになっている技術のニューラルネットって何か知っていますか。
今の人工知能は、機械学習をベースにやっています。機械学習というのは、たくさんのデータを学習して、モデルという計算機のプログラムの中にあるアルゴリズム(問題解決のための方法や手順)に必要な数値を決めます。その学習したモデルに対して、新しいデータを入れると、推論を行って結果が出るのです。
例えば数字の拡大鮮明化だったら、数字の1がぼけたらこう、2だったらこうなると、数多くの例を学習させていくと、ぼけがひどくて人間の目では判読できなくても、学習したモデルを使って予測することができるのです。それが基本的なディープラーニング機械学習の考え方です。その機械学習で一番使われているのがニューラルネットというモデルです。
私が例示した画面は、配布した資料にあるサイトに載せているので、家に帰ったら見てください。それでは質問を受けます。
湘南工科大学尾﨑研究室URL
http://www.md.shonan-it.ac.jp/contents/oz/kodomouniversity2018/
◇ 質問コーナー ◇
Q.4年生 先生は何ができるロボットを作りたいですか。
尾﨑先生 私自身、だんだん高齢化してきたので、自分を見守って、介護してくれる見守りロボットを完成させたいと思っています。
Q.4年生 先生は人間とAIの間で戦争は起こると思っていますか。
尾﨑先生 2045年に1個のコンピュータのチップが、世界の人間の知能を超えると言っている人がいます。ただ今のところ、AIは、たくさんのデータを学習して、それと似ていることを出すというだけなので、人間に勝つAIは出てこないと思います。ただ最近5年くらいで、自動的に顔を出す技術が開発されたりしました。だから予測できないことを考える人たちが、うまい具合にやればすごいAIができる。さらにその人たちが必ずしも良い人たちでなかったら、戦わないといけない可能性が出てくるかもしれません。ただ現状の技術では人間のほうが賢いです。
Q.5年生 先生が作ったロボットはありますか。
尾﨑先生 人工知能と移動ロボットを組み合わせた高齢者支援ロボットや、自分で設計して3Ⅾプリンターで作り、モーターをつけて動かすロボットを開発したりしています。今、研究中の見守りロボットは、お年寄りについて回り、トイレに入っても出てこないときは、家族の人に連絡するというロボットです。それ以外にも大学には何人かロボットを研究している先生がいて、トンネルの点検ロボット、宇宙エレベーターなどのロボット技術などを研究しています。良ければ見に来てください。
Q.6年生 人間型ロボットで泳げるロボットはありますか。
尾﨑先生 いまのところありません。ロボットというのは必ずしも人間と同じでなくてもいい。潜水艦やシーラカンスのようなロボットはありますが、人間の形をして泳ぐのはありません。
Q.6年生 写真を作るという説明がありましたが、何を元にして作るんですか。
尾﨑先生 本物の写真がありますね。本物の写真と、AIが本物の写真に似せて作ろうとして頑張って作った写真があります。作るAIとチェックするAIがあって、そのチェックするAIが、本物の写真と比べて、作ってきた写真が本物かどうかを判定します。作ってきたものをニセモノだと判定すれば、作るAIは「失敗したから、もっといいのを作ろうと」と、もっといい絵を作ってきます。再度チェックして、「これ本物だ」と言えば、作るAIは「今みたいに作ればいいんだなあ」と納得する。どんどん繰り返していくうちに、本物の写真に近くなってくるというのが現状の技術です。(了)
(文責=横川和夫 写真=島村國治)