2018年度子ども大学かまくら第4回授業(要約)
「世界に誇る国際人『新渡戸稲造』 ― 『武士道』ってなんだろう?」
講師:柴崎由紀先生 銀の鈴社、鎌倉ペンクラブ会員
2018年12月8日(土) 鎌倉学園 星月ホール
(授業レポート)
はじめに「日本はすばらしいなあ」という 言葉から始まりました。
ニューヨークの地下鉄にはゴミがありますが、日本の空港はきれいです。海外から帰ると、いつも、日本はすばらしいと感じます。今回は シカゴ美術館の浮世絵展覧会へ行ってきました。欧米の有名な絵が日本でよく展示されることがありますが、逆に、日本のすばらしい浮世絵が外国で高く評価され展示されていました。
*武士道 日本の精神
千鳥ヶ淵の桜
日本に来た外国人は、日本では桜についてのニュースが多いのに驚くことがあります。
新渡戸稲造は「武士道」の中で 日本人は桜が好きだが、ヨーロッパ人はバラが好きだ と 次のような内容のことを書いています。
「ヨーロッパの人々は、薔薇の花を好む。華やかな色彩と濃厚な香り。しかし、その美しさの影にトゲを隠し持つ。枯れるときは、枝についたまま朽ち、生への執着と死への恐れをあらわしているかのようだ。一方、私たち日本人が愛するのは、桜の花だ。淡い色彩とほのかな香り。その美しさの下に、刃も毒も隠してはいない。散る時の潔さは、まさに死を恐れない武士道の精神そのものである」
また、日本人は 山とか 滝を 崇拝しますね。
「武士道 日本の精神」の出版
新渡戸稲造は1900年に初版『武士道 日本の精神』を出版しました。
この本を英語で書いた理由は、次のとおりです。
1) 「宗教教育のない日本で、日本人はどうして道徳を身につけるのか」という質問に答える
2) アメリカ人の妻メアリーからの日本の風習や習慣についての疑問に答える
3) 欧米人も日本人も 人間として 本質は 同じであることを世界に知らせる
すなわち 日本人を理解してもらうためでした。
日本人は贈り物を渡す場合「つまらないものですが」と言いますね。
このほかいろいろな話を例に出して、日本人の特性についての説明がありました。
武士道は、日本人の心にずっと受けつがれてきた美徳
武士道の精神の確立は、鎌倉時代です。
武士道は、武士の行動や判断の基準です。
西洋には「ノブレス・オブリージュ」(一部の位の高い人々が負うべき義務)がありますが、日本の武士道は、一般のひとびとにもこの精神が伝わっていたことがすばらしいのです。
武士道のキーワードは 義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義、克己 などです。
*日本人の特長は何か?
「武士道精神」に照らすと
・時間をまもる
・礼儀正しい(人に敬意を表す作法)=武士道の「礼」
・正直、誠実=武士道の「誠」
・列に並ぶ - 東日本大震災のときに人々が整然と並んだ話があります。
2011年3月11日の東日本大震災の時の原発事故では 被曝する危険が知りながら 自発的に復旧作業にあたった人がいました。 そこには「義」と「勇」があったのです。
セオドア・ルーズベルト大統領は
日本の武士道の高い思想を、アメリカ人も学ぶべきであると教えました。
第二次世界大戦中も、アメリカ大統領が亡くなったとき、日本の鈴木貫太郎首相が、敵国にもかかわらずお悔みのメッセージを発表し、世界の人々に感動を与えました。
「武士道」への開成中学三年生の感想文より
「いまぼくたちは世界最先端の技術を持っていることを誇る前に、日本の伝統や歴史・文化そして精神を知っておくべきだ。『武士道』にはこれまで培われてきた日本人の精神が詰まっており、必読書である」
(休憩10分)
*新渡戸稲造について
新渡戸稲造を知っている人は?
会場から「歴史マンガで読んだ」の反応がありました。
奥さんはアメリカ人のメアリーさんで、新渡戸稲造は5000円札の肖像になっていました(1984年から2007年まで)。
このお札は、今でも使えます。
新渡戸稲造のプロファイルは
1862年 盛岡の武家の生まれで、アメリカ、ドイツに留学、北海道大学、東京大学、東京女子大 に勤務し、国際連盟事務次長、貴族院議員を歴任しました。
盛岡市の公園(生家跡)に銅像があります。
9歳の時、勉強のため駕籠に乗って兄と一緒に上京しました。
15歳の時、クラーク博士で有名な札幌農学校に入学しました。
アメリカ、フィラデルフィアのクエーカーの会堂でメアリー夫人と結婚しました。
国際連盟の事務次長を務めて
「国際知的交流委員会」(後のユネスコ)を立ち上げました。アインシュタイン、キューリー夫人と一緒に撮った写真(※)も残っています。
その後 別荘を鎌倉にもってメアリー夫人と週末を過ごしました。今は、跡地に聖路加国際大学セミナーハウス「アリスハウス」が建っています。
1928年7月18日、鎌倉の妙本寺で撮った「母の50周年」の写真も残っています。(※)盛岡先人記念館の協力による
*新渡戸稲造から学ぶこと
『伝記』=ノンフィクションを読む
・一人の人物の一生を学んでわかること
・自分以外の人の人生を生きることができる
・その人の生きた時代や経験を共有できる
・歴史が得意になる/知識や興味が広がる/おもしろい「出会い」があるのです。
新渡戸稲造から学ぶ
1) 「ありがとう」の気持ちを大切にしよう
2) 目の前にあることを全力でやってみよう
3) この世に生まれて大きな目的 いかに喜ばれる存在になるか=武士道の「仁」
新渡戸稲造の「卒業生に贈る」言葉の一部
「皆さんが ここにあるのは 犠牲の賜物 である。両親の犠牲、先生の犠牲、・・・。自分のためにこれほどのことを考えてくれる人がいるのだという気持ちがあれば、百万の敵も恐れることはありません。」
◇ 質問コーナー ◇
Q.先生の好きな桜は何ですか
柴崎先生 しだれ桜。ワシントンの桜、ニューヨークの桜もいいですよ。
Q.新渡戸稲造はなぜ名が残っているのですか
柴崎先生 理由の一つは、当時 英語で日本について説明した代表的な本 岡倉天心の「茶の本」、稲造の「武士道」などが出版されたから。
Q.先生は、新渡戸稲造のどこが好きですか
柴崎先生 スイスの銀行で働いているとき、関心を持ちました。森鴎外(恩師の祖父)への関心から新渡戸稲造を深く知りたいと思ったのです。 (了)
(文責=宇野次郎 写真=島村國治)