2017(平成29)年度 第3回授業
「炎の不思議・ローソクからロケットまで」
講師 吉田 亮先生
東京電機大学名誉教授
9月2日(土)午後2時
鎌倉生涯学習センターホール
(授業リポート)
140万年前から人間は火を使う
皆さん、おはようございます。今日は炎の話をします。
火はいろいろなところで使われています。人間が火を使い始めたのは140万年も前の原始人からです。獲物を料理し、暖房に火を利用していました。火は人間の技術の中で最も歴史が古い技術だ、と言われています。人間は進歩したような気がしますが、やっていることは140万年前の原始人と同じことを今もやっているのです。
火は料理以外に、お寺で使うお線香、花火、バーベキューの炭、ゴミの焼却炉など、さまざまな使い方をして人間生活に役立ってきました。
人間は火を使う工業製品を開発しました。自動車のエンジンは、ガソリンを燃焼させることで車を動かす力を得ています。そのほか、火力発電、飛行機のエンジン、ロケット、船のエンジンも燃焼、つまり炎を利用しています。
炎を利用してエンジン開発
火力発電は石炭を大量に燃やして水を蒸発させ、タービンを回して電気をつくっています。ロケットは、水素と酸素を燃やしてできる燃焼ガスを推力にしています。パルコン9というアメリカの民間企業が打ち上げたロケットは、2段式ロケットです。これまでは1段目を使い捨ててきましたが、回収する技術を開発して何回も使おうとしています。
クィーンメリー2世号という客船は、3階建てビルの大きさのディーゼルエンジン4つと、ジェットエンジン2つで発電機を回し、電気でモーターを動かし、スクリューを回しています。
地球温暖化は炎がもたらす害
炎を利用する話をしてきましたが、炎の害もたくさんあります。
工場が爆発し、自動車火災や山火事も起きます。ホテルや大型リゾート施設などでの火災では死傷者も出ます。
地球温暖化も大問題です。地球がだんだん温かくなってきます。なぜでしょうか。ものを燃やすと二酸化炭素が出ます。この二酸化炭素が地球のまわりに層となってたまってしまう。すると太陽の熱で昼間は温かくなった地球が、太陽が沈んだ夜になっても冷えなくなる。二酸化炭素の層が、布団の役割をしてしまうんです。そのため北極の氷が年々、減ってきています。
もう一つの害はスモッグです。中国の工業都市・重慶や、首都の北京では、工場や車の排気ガスで空気が汚れ、見通しが悪く、健康被害も出ています。
炎は人間の生活に役立つだけではなく、人間に被害を与えていることも覚えておいてください。
火には燃料、空気、点火装置の三点セット
話を少し変えます。ものを燃やす時には燃料を使います。ポータブルガスコンロは、ガスボンベに入った気体の燃料です。自動車はガソリンで液体。バーベキューに使う炭は個体です。燃料には気体、液体、個体の三種類があります。
人間が呼吸して酸素を肺に送り込むと同じように、燃料を燃やすためには空気の酸素が必要です。空気と燃料があっても、発火装置がなければ燃えません。点火装置が必要なのです。
昔はマッチなどがなかったため、木を棒でゴリゴリこすって火を起こしていました。火をつけるためには燃料と空気、点火装置の3点セットが必要だということも覚えておいてください。
(休憩)
見えないものを理解するには頭が必要
後半は、見えないものを理解することを皆さんにやってもらいます。
ロボットは写真で見ると、すぐロボットだと理解できます。景色や写真のない活字だけの本を読むと、書いてあることをイメージしなければなりません。つまり見えないものは、頭を使い、考えなければ理解できないのです。
200CCのガラス容器が2つあります。1つには普通の水、もう1つには砂糖水が入っています。2つを1つの容器に入れると、量は400CCになりますが、味はどうなったかは見えないので、考えなければなりません。
水の流れは高いところから低いところへ流れます。お金も、あるところからないところへ流れます。水は高さですが、電気は電圧で、電圧は高いところから低いところへ流れます。
雷の稲妻、これは電流ですが、空から地面に流れるように見えるけれど、実は逆です。雲はマイナスの電極をもっていて、地上がプラスになる。だから電流は地面から空へ流れるのです。
皆さんが見ているのは電子の流れそのものではなく、電子によって空気が分解されてプラズマ状に光ったもの、つまり電子が通過した後の現象を見ているにすぎないのです。
全てのものは移動する「輸送現象」
熱の流れ、これも目には見えません。熱も、温度の高いところから温度の低いところに流れていく。熱いお湯のなかにオタマジャクシを入れると、冷たかった柄が熱くなります。熱は見えないけれど伝わっているのです。
水の中にインクを1滴たらすと、広がっていき、濃かったインクが薄くなっていきます。濃い物質が薄い物質のほうへ広がっていく。
高いほうから低いほうに流れていく現象を、難しい言葉で言うと拡散すると言います。
水を入れたコップをグルっと回してやると、中の水も回ります。ガラスのそばの水は高速で回り、だんだん、内側の水に伝わっていく。摩擦によって運動そのものが、大きいものから小さいものへ伝わっていくのです。
この3つの現象を難しい言葉では「輸送現象」と言います。
呼吸しているローソクの炎
熱気球はどうして空に浮かぶか知っていますか。熱気球を飛ばす時に入口から炎を入れて空気の温度を上げてやる。暖かい空気は軽くなるので、気球は浮かび上がるのです。
そこでローソクの炎を考えてみましょう。ローソクの炎は熱いので、温められた周辺の空気は、上にあがっていきます。
炎は呼吸しています。新鮮な空気が必要です。つまり下から摩擦によって新鮮な空気を吸い込むことになる。ローソクが永遠に燃えることができる大きな理由になっています。
炎で起きる複雑な現象
ここでいろいろなものの流れを考えてみます。
燃えていない状態では温度は低い。燃えた状態では温度は高くなります。熱は低いほうに流れます。だから炎の中で、燃えた状態から燃えない状態へ熱が移動していくのです。これは目には見えません。
燃料は燃えると薄くなり、やがてなくなります。燃料は濃いほうから薄いほうへ移動します。
次に速度です。燃えると速度は早くなります。だから運動は、早いほうから遅いほうに伝わっていきます。炎を見ても、このような動きはわかりません。ローソクは固体燃料ですが、炎でとけて液体燃料になり、毛細現象を通じて蒸発して気体燃料に変化していく。目には見えませんが、実に複雑な現象が起きているのです。
見えないものを考える習慣を
話はちょっとそれますが、日本の文化と炎は、かなり密接な関係があります。「火事とけんかは江戸の華」といわれるほど、江戸を特徴づけたのが火事でした。
「焚火」という小学唱歌もありました。ローソクについては英国人のマイケル・ファラデーが「ローソクの科学」という本を書いています。翻訳されたものが岩波文庫と角川文庫になっています。角川文庫は、漢字にふり仮名がふってあるので、皆さんでも読めます。
最後になりましたが、私は音速の5倍で飛ぶような超高速旅客機のエンジンに関係する研究をしています。ものすごい早い流れの中で、火をつくるにはどうしたらよいかを考えています。まだ実用化にはいたっていませんが、実現したら東京からニューヨークまで旅客機で12時間かかるのが、2時間半から3時間で行けるようになります。
みんなにお願いしたいのは、見えるものがすべてではない、ことです。見えないところで、いろいろなことが起きています。その見えないものを考える習慣をつけてください。
◇ 質問コーナー ◇
Q.5年生 一番好きな飛行機の種類は何ですか。
吉田先生 一番乗り心地(ここち)が良かったのは、エアバスA380というもすごく大きい旅客機です。
Q.4年生 先生は何で炎の研究をしているのですか。
吉田先生 極超音速機の飛行機、音速の5倍で飛ぶような飛行機を造るときに、ものすごく早い流れの中で炎をつくらなければならない。炎の性質をよく知らないとエンジンの設計もできない。それで炎の研究をし、最終的には早い流れのなかで炎をつくることが目的です。
Q.4年生 研究で一番やっかいだったのは何ですか。
吉田先生 iPS細胞を見つけてノーベル賞を受賞された山中伸弥先生は、10の実験をして9個は失敗だったと言っています。50年近く研究をしていますが、やることは、ほとんど失敗です。失敗したときはつらいけれど、最後に成功したときは、すごくうれしい。
Q.5年生 先生は、子どものころ、雷が電気だと信じていましたか。
吉田先生 雷が電気であると見つけたのはフランクリンでした。ちょうど、あなたぐらいのときに、フランクリンの本を読んで、雷は電気なんだと知りました。その前は、わかんなかった。(了)
(文責・横川和夫、写真・島村國治)