「おいしいって、なんだろう?」
講師:松木直也先生
食育アドバイザー・編集者、東京都市大学付属小学校講師
9月5日(土)午後14時~15時50分
建長寺応真閣
(授業リポート・要約)
第一部 「おいしいって、なーんだ。みんなで考えてみよう」
五感で味わう
「食育」とは何でしょうか。食べて元気に育つための勉強です。
まず、「五感」の話をしましょう。五感とは、見る、聞く、嗅(か)ぐ、味わう、さわる、です。
「おいしい」は五感で感じます。食べて味わうだけでなく、(料理の色や形を)見る、においをかぐ、さわる、(にえる、焼く)音を聞くことで、「おいしい」を感じます。
5つの味がある
では、「味」についてお話します。まず「あまみ(甘味)」について。(学生にあらかじめサトウが器に入れて配ってある)。渡(わた)してあるサトウをなめてみよう。においもかいでみよう。これは特別のサトウだよ。
(机にサトウの入ったビンをならべる)
ここに4種類のサトウがあります。サラサラしたサトウ、ちょっとサラサラしたサトウ、ザラザラしたサトウ、かたまったサトウです。いずれも鹿児島(かごしま)の喜界島(きかいがしま)でサトウキビからつくった黒ザトウです。
味には5つあります。あまみ(甘味)、さんみ(酸味)、にがみ(苦味)、しおみ(塩味)、うまみ(旨味)です。(味の種類とそれぞれの味の食べ物を学生に聞く。学生たちは活発に応える)
3つのうま味
では、うま味(旨味)について話しましょう。いま、世界中から多くの料理人が日本食(和食)の勉強に来ています。それは日本料理独特の味のうま味を研究するためです。うま味とは出汁(だし)です。それは3つあります。昆布(こんぶ)、かつお節、干(ほ)しシイタケです。こんぶにはグルタミン酸(さん)、かつお節にはイノシン酸、干しシイタケにはグアニル酸が含(ふく)まれていて、これがうま味のもとです。
和食はユネスコの無形文化遺産(いさん)に指定されました。それは、①新鮮(しんせん)な食材をいかしている、②栄養バランスがいい、③自然食で季節感がある、④年中行事と結びついている、と評価されたからです。
舌のみらいで味を感じる
ミニトマトを食べてください。(全員に配る)。30回、噛(か)んでみて。味はどこで感じますか。舌の上にあるブツブツの「みらい」(味蕾)で感じますね。(スクリーンに図で示す)。
みらいは、小学6年生のときに1万2000個ぐらいと一番多くなるといわれます。それが歳(とし)をとるにつれて、だんだん減っていきます。でも、6年生ぐらいまでに味をおぼえてしまうので、大人になっても味はわかります。子どものときから自然のもので本当の味をおぼえましょう。
第二部 紙芝居「命と食」
(はじめにスクリーンに沖縄(おきなわ)のサトウキビ畑が映(うつ)し出される)
サトウはどうのようにしてつくるのでしょうか。サトウキビの茎(くき)をこまかくくだいて、汁(しる)をしぼり、その上ずみを煮(に)つめて結晶(けっしょう)にします。それがサトウです。
なぜ長寿村(ちょうじゅむら)だったのか
では、紙芝居(しばい)「命と食」をごらんください。
(スクリーンに映(うつ)し出す。松木先生がストーリーをつくりました)
これは南米エクアドルのビルカバンバという村で本当にあった話です。とても美しい村で、100歳以上の人がたくさんいる世界三大長寿村の一つでした。この村に28年前の1987年、長寿を大学で研究している家森幸男先生が調査に行きました。
村人を健康診断(しんだん)したところ、みんな元気で、肥満の人は30%しかいませんでした。その原因は、車がないので、みんなよく歩くこと、そして食生活が良かったことです。
主食はユッカ芋(いも)、おかずは新鮮な野菜。サトウはサトウキビでつくった黒サトウ、チーズは牛の乳(ちち)からつくった「ケシージョ」という、もちもちしたもので、いろんな料理に使っていました。こうした食生活が長生きの理由の一つだったのです。
14年後、村は変わった
さて、14年後、家森先生がふたたび村に行くと、村は変わっていました。長寿村ということで世界中から観光客が来ていて、道路は舗装(ほそう)されて車が増え、レストランも増えていました。村人は電化生活をしていて、あまり体を動かさなくなっていました。
食生活もすっかり変わっていました。主食はインディカ米を塩とラードでいためたバターライスか、ラードをぬったパン、サトウは自分で作らず、安い白サトウを買って、たっぷり使っていました。6人家族で1ヵ月に30㎏以上も使っていたのです。チーズもつくるのをやめて、輸入した塩入りのチーズを食べていました。塩と油をたくさん取っていたのです。
健康診断をしたところ、肥満の人が60%と2倍に増えていました。食生活と運動不足が原因でした。寿命(じゅみょう)が10年も短くなっており、もう長寿村ではなくなっていました。
食事は生きる力をつける
これらのことをまとめると、村に肥満の人が増え、寿命が短くなったのは、かたよった食事をして、栄養のバランスが取れなくなったことと、運動不足になったことです。
食事はいのちをはぐくみ、生きる力をつけるので、とても大事です。毎日バランスのよい食事をしましょう。好きな物だけを食べる偏食(へんしょく)はしないようにしましょう。早食いはやめて、よくかんで食べると、栄養がよく吸収(きゅうしゅう)されます。料理の手伝いをして、食べ物のことにくわしくなりましょう。こうしたことが健康な体をつくることになります。
Q 舌のみらいは大人になると減るということですが、大人になって初めて食べたものの味は分かるのですか。
松木先生 においでわかります。
Q 先生の好きな食べ物は何ですか。
松木先生 がんもどき。焼いてショウガジョウユをつけて食べると、おいしいよ。
Q いま、世界三大長寿村はどこですか。
松木先生 すみません、調べていません。こんど調べておくね。
(ほかにたくさんの質問がありました)
(文責=矢倉久泰、写真=仲島孝)