「こんなに楽しい『たてもの』の歴史」~わがまち鎌倉の歴史ある景観~」
講師: 志村直愛(しむら なおよし)先生 (東北芸術工科大学教授)
7月11日(土)14時~15時50分 建長寺応真閣
(授業リポート・要約)
第一部 自己紹介
・鎌倉で生まれ日本各地を転々
1962年に鎌倉で生まれ、その後、逗子、横浜、福岡、東京、鎌倉、札幌などへ引っ越(こ)しをしたあと、東京芸大に入り建築(けんちく)を学びました。その後、建築史家の立場から数々の歴史的たてものの保存(ほぞん)や復元にたずさわるとともに、現在は山形の東北芸術工科大学につとめており、東京と山形を毎週、往(ゆ)き来しています。
・「風の人」として各地で歴史を活(い)かしたまちづくり
歴史を活かしたまちづくりの仕事を、鎌倉、横須賀、大磯、大和、山形、大江などで行ってきており、飛びまわっているので「風の人」といわれています。その仕事を活かして、「東京ウォーキングマップ」「世界一受けたい授業」などのテレビにも出演し、関連の本も出しています。
第二部 こんなに楽しいたてものの歴史
・人生の90%はたてものの中で
住まいだけでなく、駅、学校、コンビニ、・・・など、ほとんどの場面で、人の活動がたてものの中で行われていることを認識(にんしき)しましよう。
・建築の仕事をする人は理系/文系?
建築の仕事は理系(りけい)も文系(ぶんけい)もどちらの才能もひつようなので「芸術系」。かつて、1700年頃(ころ)のヨーロッパでは建築家は芸術家として尊敬(そんけい)されていました。
・歴史学で「温故知新」(おんこちしん)
「古いものはボロイ」というだけではなく「古いものはすばらしい」という見方も大切です。古いものに学びながら、新しいものをつくり出してゆきたいです。
・たてもの原点は・・・その土地の材料でつくられてきた
歴史をたどると、むかしは日本では竪穴(たてあな)式住居、高床(たかゆか)式住居でしたが、畑でお米などをつくる農耕にあわせて定住に向いた木造のたてものをつくりあげてきました。エジプト、ギリシャ、ローマ、イギリスなどの石やレンガの積み上げによる家づくりとは異(こと)なります。
日本にしかないたてものを保存(ほぞん)するシステム
日本の国土の7割(わり)が森林で、歴史の中で木造を主としたたてものが現代まで続いています。伊勢(いせ)神宮では20年ごとに建物をたてかえる式年造替(しきねんぞうたい)や、雪の多い白川郷(しらかわごう)では合掌造(がっしょうづくり)の屋根のふき替(か)えを結(ゆい)による住民組織が全員参加で行います。
・最近は木材も輸入が70%に
ところが最近は、安く手に入る外国から輸入されてくる木材のため、全国で同じようなたてものが建てられるようになりました。各地の個性のある家・まちが少なくなっているのが残念です。(その例として伝統的なまちなみとしての沖縄の民家、倉敷の蔵(くら)、白川郷の合掌造、神戸の洋館の写真と、千葉、神奈川など各地のニュータウンの写真が示されました)
第三部 鎌倉の建築・都市の魅力は?
・鎌倉は特異(とくい)な地形を活かしてつくられた古都
鎌倉は三方が山、一方が海で自然の要害(ようがい)。山と平地は入り組んだ谷戸(やと)で接し、外から入り込(こ)むには今でも切通しか、トンネルを経なければなりません。歴史上、鎌倉時代の後では、明治22年に横須賀軍港のために横須賀線が開通。その頃から鎌倉は保養・療養所(りょうようじょ)、別荘地(べっそうち)、文学者・芸術家在住などで脚光(きゃっこう)を浴び、観光地となったのです。
・歴史・自然への意識の高いまち
私は鎌倉市で景観審議会(しんぎかい)と緑政審議会の委員として、鎌倉のまちづくりにかかわってきました。鎌倉時代のものはほとんど残っていないものの、室町時代、江戸時代の歴史的なたてもので国宝(こくほう)や重要文化財となっているものがたくさんあります。この会場となった建長寺にも総門など重要文化財が5つあります。明治、大正時代の近代になってからの重要なたてものとして、旧安保小児科医院、旧和辻邸(てい)などもあります。
これは鎌倉には、たてものの高さ制限(8m以下)が厳(きび)しい風致(ふうち)地区が55%も占(し)めているからで、そんなまちは全国でも鎌倉だけです。また緑地を守ることにも積極的に取り組んでおり、先日、「広町緑地」も開かれたので、ぜひ行ってみてください。
最後に、鎌倉の若者の皆さんに実践(じっせん)してほしいこと
・自己紹介(じこしょうかい)するときは鎌倉市出身と言おう
・市内の公共的文化施設(しせつ)にすべて行ってみよう
・自分で観光ガイドをできるように勉強しよう
・外国人相手に観光案内をしてみよう
Q (建長寺内の)この会場のあるたてものの高さは何メートルくらいですか?
志村先生 この部屋の造り(つくり)を見ると、これを2層(そう)に重ねて屋根をつけて8~9メートルくらいとみられます。
Q 鎌倉で一番古いたてものはどこでしょうか?
志村先生 荏柄天神(えがらてんじん)の本殿(ほんでん)が、鶴岡八幡の下の若宮(わかみや)を移築したもので鎌倉時代の可能性があると言われています。
Q 先生がもっとも好きな建造物はどこでしょうか?
志村先生 いろいろありますが、東京都庭園美術館が好きです。昭和8年にたてられ、アール・デコ様式で統一された外観と室内、そして展示(てんじ)作品がすてきです。(了)
(文責=中村和男、写真=山崎裕弘)