「宇宙・人・夢をつなぐ」
講師: 山崎直子先生 宇宙飛行士
12月20日(土)午後2時~4時 建長寺応真閣
(授業レポート・要約)
35ヶ国550人が宇宙(うちゅう)へ
人類が初めて宇宙に飛んだのはソ連(いまのロシア)のユーリ・ガガーリンさんでした。1961年のことですから、みなさんが生まれる前でした。これまで宇宙に行った人は何人でしょうか。35カ国の約550人です(2011年現在)。日本人として最初に宇宙に行った人はTBSでテレビジャーナリストをしていた秋山豊寛(とよひろ)さんで、1990年12月のことです。いままで9人の日本人が宇宙に行っています。
8分30秒で宇宙に到着(とうちゃく)
私が宇宙にあこがれたのは小学校2年生のとき、天体望遠鏡で月のクレーターと土星の輪を見てからです。大学を卒業してJAXA(宇宙航空開発研究機構)の宇宙飛行士の1年がかりの試験にパスし、1999年から11年間の訓練を受けて2010年4月5日、アメリカから宇宙船スペースシャトル「ディスカバリー号」に乗って飛び立ちました。宇宙船の打ち上げの時には一気に加速していくので3G位の力がかかります。3Gは自分の体の上に自分と同じ体重の人が3人乗っている感じで、ちょっと重いなと思います。ゆっくり深呼吸(しんこきゅう)して体を動かしていけば大丈夫(だいじょうぶ)です。地球を離(はな)れてたったの8分30秒で高度400kmの宇宙に到着しました。あっという間でした。そこから点のように見えていた国際宇宙ステーションに近づいて行ったのです。
顔がむくみ、味覚もにぶくなった
宇宙船は長さ100m、奥(おく)行き70m、サッカー場くらの広さがあります。ここに乗り移るときには、重い宇宙服を脱(ぬ)いでラフな普段着(ふだんぎ)姿(すがた)になりました。無重力になったので、体がふわっと浮(う)きました。体の血液は地球では重力のため下の方にいきますが、宇宙では上の方に動きます。だから顔がむくみました。味覚も若干(じゃっかん)にぶくなりました。
飲み物はアルミの袋(ふくろ)に最初は粉だけが入っていて、針(はり)をさして水かお湯を加え、ストローで吸(す)い飲みします。食べ物はハンバーグなどの入った袋に針でお湯を加え3分間ほど待ち、やわらかくなったところで食べます。ラーメンやライスカレーなどもありました。いま宇宙食は300種類もあり、おいしいそうです。
壁や天井に張り付いて寝た
寝(ね)るときは寝袋に入って立ったまま寝ました。4畳(じょう)半くらいの狭(せま)い部屋に7人が、ざこ寝状態でした。でも無重力なので壁(かべ)や天井(てんじょう)に張りついて寝られました。夜中に目が覚めると、人の顔が思いがけないところにあってギヨッとすることもありました。いまは長期滞在(たいざい)の人は個室で寝るようになっています。
宇宙ステーションでは、さまざまな実験をしました。ローソクの焔(ほのお)は上に伸(の)びず、そのままたまるので、丸くなって空気が入らないのですぐ消えてしまいます。シャボン玉に赤い絵の具を入れると、地上では下の方に色がたまりますが、無重力だとシャボン玉の表面全体が赤くなり、とてもきれいです。宇宙空間での植物の育て方の実験もしました。将来(しょうらい)は宇宙船の中で育てた野菜を食べられるようになるでしょう。
90分で地球を一周
人間の体も変化します。身長が伸びます。背骨(せぼね)の骨と骨の間が無重力で伸びるからです。私は3㎝伸びました。体重は5キロ位減る人が多いです。歩かないので足の筋肉(きんにく)が衰(おとろ)えるからです。
宇宙船はマッハ25で、90分で地球を一周します。45分ごとに昼、夜を繰(く)り返します。私は2週間、宇宙から、日の出/日の入り、台風、オーロラなどの地球の周りの様々な自然現象、太陽、月そして銀河など暗黒の空間に広がる星の世界、夜は夜で地球の大きな街は明るく見えるし、人の営みの力強さを感じました。その美しさに感動し、私たちの世界や宇宙についての新たな見方をもつことができました。そして、4月20日にアメリカのケネディー宇宙センターに無事戻(もど)ってきました。
みなさんの将来に新しい可能性
これからは宇宙へ行く方法がどんどん変わっていくことでしょう。エレベーターで宇宙へ行けるようになるかもしれません。
私の好きな言葉は「ワンダフル」(すばらしい)です。その元になっているのが「ワンダー」(未知)で、未知なことがたくさんあるのがすばらしい。つまりまだまだ宇宙のことは分からないことだらけです。人生も同じです。みなさんが将来進む道は、まだ決まっていませんね。どいう人と出会うかも分かりません。そこに新しい可能性があるのです。それはすばらしいことです。いまが成長のチャンスなのです。(了)
◇ 質問コーナー ◇
Q 宇宙で暑さ、寒さはありますか?
山崎先生 真っ暗な宇宙空間はマイナス270度です。太陽が当たるところは150度、当たらないところはマイナス120度。その温度差に耐(た)えられるように宇宙服はできています。
Q 宇宙船でのトイレはどうしますか?
山崎先生 小は掃除機(そうじき)のようなチューブを当てて、大はイスに座(すわ)って出すと吸(す)い取ってくれます。ちゃんとイスに座らないと、大が船内を漂(ただよ)って大変なことになります。そのため何度も練習しました。
Q ガガーリンは大気圏(たいきけん)に再突入(さいとつにゅう)する時に失敗し危険(きけん)だったと聞いているのですが?
山崎先生 再突入の時に人間の乗ったカプセルが他の付属部位と分離(ぶんり)できず危険な状態になりましたが、幸いワイヤが燃えて切り離すことができ、事なきをえたのです。
Q 国際宇宙ステーションのプロジェクトはだれの発案なのですか?
山崎先生 1980年代初期、アメリカのレーガン大統領から、最初の計画が持ち上がりました。
Q 無重力で頭に血が上って大変だったのでは?
山崎先生 宇宙に着いた直後は頭に血が上った感じで大変でしたが、一日、二日たつと慣れてきました。しかし宇宙にいるときは顔がむくんでいました。
Q ハミガキはどのように行ったのですか?
山崎先生 歯磨(みがき)き粉をつけてブラシで磨くところまでは普通(ふつう)通りですが、口をゆすいだ水はティッシュに出すとゴミになるので、飲み込(こ)んでしまいます。最初は大変ですが、これも慣れます。
Q 宇宙船内で空中移動するとき、壁などに触(ふ)れないときはどうするのですか?
山崎先生 今の宇宙船はそれほど広くないので壁などを利用できますが、壁に触れなくても例えば息を強く吹(ふく)くと、ゆっくりですがその反対方向に少しづつ動きます。
Q 宇宙でガンなどの病気になったらどうするのですか?
山崎先生 大きな病気になった飛行士はいませんが、常備薬くらいしかないので、盲腸(もうちょう)になったりしたときは救命ボートに乗って24時間以内に地球に戻(もど)れます。月や火星に行く場合は、宇宙船で手術もできたほうがよいのではないかと検討(けんとう)中です。(了)
(文責:矢倉・中村)
写真:山崎裕弘撮影