2013(平成25)年度 第5回授業

 「技術が世界を動かす」 

 講師:中村和男先生 長岡技術科学大学名誉教授

   山崎起助先生 三菱電気住環境研究開発センター元研究員

 

3月1日(土)14時~15時半

円覚寺 信徒会館にて

 

授業レポート

 


<中村先生の話>

 

何のために、どのようにつくるか  

 

 みなさん、こんにちは。きょうは「技術が世界を動かす」をテーマに授業をします。はじめに「技術とは何か」についてお話します。まず、みなさんにおたずねします。自分で巣箱を作ったことのある人はいますか? どのように作りましたか?  (学生)木を組み立てて作りました。 ― その木は、だれが用意しましたか? (学生)もう切ってあった。 ― はい、ありがとう。 巣箱を作るときは、まず、どんな鳥のための巣箱をつくるかを考えることです。その鳥のようすを観察(かんさつ)して、その鳥に合った巣箱を設計(せっけい)します。その設計図にしたがって木を切り、組み立てます。そのとき、どんな道具を使いますか? くぎ、のこぎり、ハンマー(金づち)が必要ですね。 では、新型自動車を開発(かいはつ)し、それを工場で大量(たいりょう)に生産するときに必要な技術は何でしょうか? 自動車工場を見学した人はいますか?(多くの学生が、手をあげる) はい、けっこういますね。

  

 新しい自動車をつくるときは、まず、どんな車をだれのためにつくるか考えます。そして設計図を描き、エンジンや部品、車のデザインを考え、試作品(しさくひん)を作ります。それを走らせてテストし、よくないところを改めたうえで、工場で組み立て、検査をして、出荷(しゅっか)します。 このように、モノをつくるときは、まず、「Why なぜつくるか」、何のために、誰のために作るかを考え、「What 何を」作るか、そして「How どのように」作るかを考えます。つまり人間の知恵と技(わざ)を使って工夫してモノを作る、これが技術を使ったモノづくりの本質です。身の回りで技術というとどんなモノやコトを思いつくか考えてみてください。

物質、情報そしてエネルギーが世界をつくる

 

 私たちの「世界」は、どんなモノから作られているでしょうか。私たちの周りには空、海、山、川など自然がありますね。人間はその中で暮らしています。でも、それだけではありませんね。ビルディング、機械、テレビ、本など、たくさんの人間が作ったモノ(人工物)があります。 その世界は理科的には「物質」「情報」と何でできているのでしょうか。それはエネルギーですね。エネルギーにはいろいろあります。動力、風、水、熱、光、電気、音、化学、原子核などです。こうしたエネルギーがあって、はじめて世界が作られるのです。 このうち太陽から地球に来るエネルギーは、地球表面に届くとき半分に減ってしまいます。人間が使っているエネルギーは、そのうちの0.1%にもなりませんし、実際は過去に降り注いだ太陽エネルギーが形を変えて貯えられた石炭や石油などを使っているのです。そして、地球に入ってくるエネルギーと出て行くエネルギーが同じ量なら問題ないのですが、出て行くエネルギーが少ないと、エネルギーが地球上にたまって温暖化現象(おんだんかげんしょう)を起こします。

技術が生んだプラス面とマイナス面

 

 では、人間が開発した技術には、どんなものがあるでしょうか。社会が工業化しはじめたのはイギリスで18世紀から19世紀にかけてです。これを「産業革命」といいます。お湯を沸(わ)かすと出る蒸気(じょうき)で機械(きかい)を動かす蒸気機関が発明されました。そのエネルギーを利用して製鉄(せいてつ)や紡績(ぼうせき)が始まりました。鉄道も走り出しました。 工場で働くために都会に人が集まるようになり、給料をもらって便利で豊かな生活ができる人が増えました。しかし、田舎(いなか)では人が減って、貧しい暮らしをしなければならない人もいました。 機械を動かすためにはエネルギーが必要です。いま大量の石油を燃やしてエネルギーを取り出していますが、それが一方で地球の温暖化をもたらしています。それはなぜでしょうか。石油は炭素と水素の化合物です。これに酸素を加えると、二酸化炭素と水とエネルギーになります。この空気中にすてられた大量の二酸化炭素が地球から宇宙へ熱を放出するときのさまたげになっているのです。 このように、技術の進歩はプラス面もありますが、マイナス面も生みました。このまま行くと、人類の将来はないと言われます。だからいま、自然を守るための技術開発が進んでいます。地球にやさしいもの作りです。排気ガスを減らす自動車や電気で走る自動車、発熱を抑えるLEDランプなどがそうですね。

<山崎先生の話>

 

「なぜだろう」を大事にする

 

 私は三菱電機で熱と人間の関係、具体的には空調(エアコン)関係の研究・開発をしてきました。 私は研究・開発にあたっては、まず「なぜこうなるのだろう」と考えることにしていました。たえず、「なぜだろう」という疑問を頭の中に持っておくと、何か解決すべきことが出てきたとき、その疑問から新しいものがつくり出せます。技術とは、ある物の原理原則をふまえて、どうすればよいかを考えることです。ですから、みなさんも「なぜだろう」と考えることを大事にしてください。 では、暮らしにおける熱エネルギーの技術についてお話しします。 まず、熱には2通りあります。顕熱(けんねつ)と潜熱(せんねつ)です。顕熱とは、水を温めると温度が高くなり、冷やすと温度が下がる、こういう変化する温度のことです。潜熱とは、水を加熱していって100度になると蒸発(じょうはつ)に加熱エネルギーが使われます。これが潜熱です。 その熱の伝わり方に「伝導」(でんどう)というのがあります。これは物の中で熱が移動することを言います。「対流」(たいりゅう)は、物の流れに伴って熱が移動すること、「輻射」(ふくしゃ)は、空間を熱が光のように移動することを言います。

 

 

なぜ暑さ寒さを感じるのか ― 暖房・冷房へ

 

 空調(エアコン)の仕組みをお話する前に、まず、体(からだ)が感じる暑さ・寒さについて考えてみましょう。着物を着ると、なぜ暖かいのだろう。熱を伝えにくい空気が着物の間に入って、体温が外に逃げないからですね。着物をぬぐと熱が外へ逃げやすくなります。どんな着物を着ると暖かいでしょうか。綿や毛の入った着物ですね。それは綿や毛の間に空気が閉じ込められているからです。 では、空調の話です。冬に暖房するのはなぜだろう。部屋の温度が外の気温よりも高いと、人はその部屋が暖かく感じます。暖房するために電気や灯油を使いますが、その量をどのようにしたら減らすことができるのでしょうか。冷たい空気に体をふれさせないことです。それで毛糸のセーターを着たり、たくさん重(かさね)て着ればいいですね。また、窓にカーテンをかけたり、かべに断熱材(だんねつざい)を入れたりするのもいいですね。寝るとき足にアルミホイルを巻いて靴下をはくと暖かいですよ。 夏に冷房するのはなぜでしょう。体の熱を放出しやすくするためです。一方、冷房を節約するのはどうすればいいでしょうか。部屋の外から入ってくる熱を少なくするために、壁に空気の着物(断熱材といいます)を着せたり、扇風機などで体の熱を放出しやすくするなどの方法があります。また外からの風通しを良くして冷房のかわりにするなどの方法も有効です。 最近のヒートポンプ(冷暖房機)は、暖房の時外気から熱を吸い上げたり、冷房の時部屋の熱を外気に放出したりするなど、低温から高温へ温度差にさからって熱を移動させ、そこで得た熱を冷暖房に利用しています。それにより使用する電気エネルギーよりずっと多くのエネルギーを冷暖房に利用できるので、効率が良く、環境にやさしい技術になっています。


 

<中村先生の話>

 

新たな世界をつくるための技術開発

 

 最後に、新たな世界をつくりあげていくためにどうすればよいか、いま取り組まれている技術にふれてみたいと思います。 地球温暖化の原因のひとつになっている二酸化炭素を吸収する人工光合成(じんこうこうごうせい)に挑戦(ちょうせん)している人がいます。また、地球を飛び出して宇宙でモノづくりをしてみようという人がいます。宇宙は重力がないので、地球ではできないものが何かできるのではないか。いま国際宇宙ステーションで実験が行われています。また、地球にはない物質を発見できるかもしれない。「はやぶさ」が7年かけて小惑星「イトカワ」で物質を採ってきましたね。 人間がつくったモノ(人工物)に知恵と心を持たせることができるかというのも大きな課題(かだい)です。人間の知能を人工的につくれるか。アニメの電気スタンドに人間のようにあいさつをさせる研究も行われています。くらしの中で、人間とロボットが助け合い、語り合えるための技術の開発も取り組まれています。危険な災害現場で人間に代わって活躍するロボットの開発も進んでいます。こうした技術開発で新しい世界がつくられていくことでしょう。 最後につぎのことをみなさんに言っておきたいと思います。 私たち人類が、この地球で太陽の恵みを受けながら自然とともにあって、真にゆたかな生き方をしてゆくためには、人間の知恵と技(わざ)を集めて、未来をひらく新たな技術に挑戦をしつづけることが大切です。

(報告者:矢倉久泰)


2013年度修了証授与式

2013年度の子ども大学かまくらは、

第5回授業の後、修了式を行い終了いたしました。

ご協力ありがとうございました。