2013(平成25)年度 第3回授業

 

「夢をもってオンリーワンをめざそう」

講師:望月智行先生 川越胃腸病院長

 

10月5日(土)14時~16時

円覚寺 信徒会館

 

授業レポート


[先生のお話し]

 

 「私(わたし)は川越(かわごえ)に住んでいます。川越と鎌倉は歴史の古い街で、何百年も昔にこの2つの街がどこかでつながっていたという話を今、ひかえ室でしてきました。そういう話を聞くと、これも何かのご縁(えん)かなという感じがします。外科医の私が大事にしていることは人と人とのご縁を大事にすることです。今日、そのご縁があって子ども大学かまくらにうかがいました。皆さんが私の話を聞いて、夢(ゆめ)をかなえてくれるといいなあ、そのお手伝いをしたいなあと思っています」という話から、川越で胃腸(いちょう)病院の院長をされている望月先生の講義(こうぎ)は始まりました。

 

小学6年生のイチローが書いた作文「ボクの夢」

 望月先生は、日本とアメリカ大リーグで4000本のヒットを打ったイチロー選手が、小学6年生のときに書いた作文「ボクの夢」をプロジェクターで写し出し、講義を聞いていた小学4年生に大きな声で読んでもらいました。

「ボクの夢は一流のプロ野球選手になることです。そのためには中学、高校と全国大会で活やくしなければなりません。活やくできるようになるためには練習が必要です。ボクは3歳(さい)の時から練習を始めています。3歳から7歳までは半年くらいやっていましたが、3年生の時から今までは365日中365日は はげしい練習をやっています。だから、1週間中で友達と遊べるの時間は、5,6時間です。そんなに練習をやっているのだから、必ずプロ野球選手になれると思います。そして、その球団は中日ドラゴンズが西武ライオンズです。ドラフト入団で契約金(けいやくきん)は1億円以上が目標です。ボクが自信のあるのは投手か打げきです。去年の夏、ボクたちは全国大会に行きました。そして、ほとんどの投手を見てきましたが、自分が大会ナンバーワンの選手だと確信でき、打げきでは県大会4試合のうちホームランを3本打ちました。そして全体を通じた打率は5割8分3厘(りん)でした。このように自分でも納得のいく成績でした。そしてボクたちは1年間負け知らずで、野球ができました。だから、この調子でこれからもがんばります。そして、ボクが一流の選手になったら、お世話になった人に招待券(しょうたいけん)を配って、応えんしてもらうのも夢の1つです。とにかく一番大きな夢は野球選手になることです」

 「イチローは小学6年生のときには、将来こうなりたいという夢を持ち、その目標、夢に向かって一生けん命努力していた。目標のない人がいくら勉強しても成果は上がりません。そして何があってもあきらめないこと、そして感しゃの気持ちを持つこと、その大切さをイチローは教えてくれています。努力する人は必ず道が開けます。人の能力というのは知能指数(ちのうしすう)ではないのです。頭が良くないと思っていても、毎日努力する人が、一番成長します。コツコツ努力している人が社会ではえらくなるのです。学生のときの成績が、そのまま社会での能力ということではありません」

 

1%の可能性あれば夢は絶対叶う

 望月先生は家が裕福(ゆうふく)でなかったため、工業高校の電気科に進学したものの、電気の勉強が楽しいと思ったことは一度もなかった。やりたいことや夢が決まっていなかった。それでも一流企業(きぎょう)に就職(しゅうしょく)も決まり、卒業するばかりになって、日ごろの不安がちょう点に達したのです。そのときにたまたま胃ガンの手術を窓ごしに見せてもらう機会があった。そして命を失うかもしれない人を助けることが出来る仕事、つまり外科医になりたいという思いに火がついたのです。

 お金がないので私立大学には行けない。それでも「必死に勉強すればなんとかなるかもしれない」と、朝から晩(ばん)までもう勉強を始め、2年後に夢にまで見た国立大学の医学部から合格通知(ごうかくつうち)がとどいた。

 「1%の可能性(かのうせい)さえあれば、人間だれだってできるんだ、夢は絶対(ぜったい)かなうという教訓(きょうくん)を得ました。なりたい夢が決まったら、それに向かって必死に努力すれば必ずなれます。神様は、真剣(しんけん)に努力する人には、成長というチャンスをくれるのです。お金がなかった、お父さんが反対した、運がなかったから出来なかったなど、周りのせいにするのは言いわけで、出来なかったのではなく、やらなかっただけなのです。そういう人にはチャンスの神様はスーッと逃げていきます」

 辛(つらい)という字に1本線を入れると幸(しあわせ)という字になる。「辛くても頑張れば幸せがやってきます」と、医学部時代の学費や生活費をかせぐため、バイトに明けくれて大変だった頃を望月先生は振り返る。

 「チャンスが来ても飛びつける人と飛び付けない人がいます。飛びつけない人は、チャンスが来たときに飛びつけるじゅんびをしていなかった人です。チャンスの神様に応えんしてもらうためには、いつも努力してじゅんびしていなければなりません。イチローは小さい時から一生けん命に努力していたから、チャンスをうまくつかむことができたんです。やりたいときだけやっていたのではありません。成功するカギは頭の良さではありません。あきらめないことです。あきらめないという能力があるかぎり、夢は全部かないます。できるまであきらめないこと。これが今日のお話の前半で一番大切なことです。もう一度言います。こつこつ努力している人が社会で成長するのです」

 

人を幸せにするため、という夢が大切

 川越胃腸病院では110人のスタッフが働いている。望月先生はさい用する条件(じょうけん)が3つあるという。それは頭がよいとか一流大学を出ていることか、経験(けいけん)があるとかではない。

 「さい用の条件は素直(すなお)な人、明るい人、コツコツと努力する人、その3つが私のぜっ対条件です。それがない人は、どんなに頭が良くてもさい用しません。素直というとみなさんはなんでも言う事を聞いてくれる性格のことだと思うかもしれません。それは違います。素直というのは、こころにあるかべを取りはらう才能(さいのう)です。こころにかべがあると、こんなことはしたくない、ボクにはむりだよと思ってしまいます。しかし、やってみなければわかりません。そのかべを取り払うのが素直という才能です。だから人の言う事が耳に入るんです。先生や親の言うことを聞ける人、そういう素直な才能のある人のところには、みんな集まってきます。みんなが協力してくれるから、いつのまにかできるようになっていくんです」

 望月先生は、夢には2つあると言う。何になりたいかという夢と、その夢をかなえて何をするのかという夢、この2つがあって初めて夢がなりたつのだと語る。

 会場で「看護師(かんごし)になりたい」と答えた女の子に、望月先生が「看護師になって何をしたいのですか」としつ問したら「私のおじいちゃんがガンで…」と言った後、感極まって言葉が出なくなった。望月先生は「看護師になって、苦しんでいる人をささえ、力になってあげたい、と言いたかったんですね」と、助け船を出した。

 「東大に入って科学者になりたい。そこまではいい、しかし科学者になって何をしたいのか。『ウーン』と考えこんでしまう人が多い。それではダメ。夢は半分しかかなっていない、何をするのかがあって初めて夢がかなう。その何をするかには『人を幸せにする』いうことを入れてほしい」と訴えて、前半の望月先生の話は終わった。

 

 

 

 

後半はオンリーワンの話から始まった。

 

だれもがなれるオンリーワン

「オンリーワンによくにた言葉にナンバーワンがあります。ナンバーワンは一番ということです。どうちがうのでしょうか。ナンバーワンは1人しかいない、ナンバーワンは、人に勝たないと1番にはなれないのです。2番より下は、みんなナンバーワンではないのです。でもオンリーワンはみんなが、だれでもなれるのです」

 人間の生き方の象しょうとしてウサギとカメの話があると説明した後、望月先生は、「実はこのお話にはつづきがあるんです」と語り、学生たちの好き心をシゲキする。どんな話なんだろう。

 負けたウサギはくやしくて、カメに「もう1回やろう」とちょう戦する。ウサギは一生けん命走って、カメより早くゴールインして「ほれ見ろ。おれがやっぱり一番だ」とカメに自まんする。ところがカメは「ボクはちゃんとゴールに着いたし、それも前より30分も早く着いたからくやしくないよ」と答えた、という話だ。

 そこで望月先生が「ウサギはだれと競争したのかな」と質問すると、男の子は「カメ」と答え、それでは「カメは」と問いかけると「自分」という言葉が出てきた。「すごい」と先生。会場からはく手がわき起こる。 

 「ウサギの目標は他人に勝つことだけでしたが、カメは自分と競争したんです。ここが大事なんです」

 人に勝つことは相手をけ落とすことだから、人を大切にすることではない。同じ競争でも共に創(つく)るという共創(きょうそう)がある。これは人に喜びや感動をあたえて役に立つ、そして感謝されることがうれしくて、それが自分の幸せにつながっていく。喜びをいっしょに創るという意味で共創なのだという。

 

人を幸せにするのが仕事だ

 「仕事というのは人を幸せにすることです。働いてお金をもらう事だけが仕事ではありません。この世の中にはつまらない仕事というのはひとつもありません。『仕事がつまらない』と言う人は仕事をしていないからです。つまりウサギと同じで、自分のためだけにやっているから他人から感謝されません。人と比べるから自分の不幸が始まるんです。人と比(くら)べることは不満が出るからやめましょう。比べるのは昨日の自分と今日の自分です。昨日の自分より今日の自分の方がすてきかな、成長しているかな、と考えていくことが幸せの始まりです」

 「ナンバーワンは一番になることです。それより人に認(みと)められ、感しゃされることの方がずっと幸せです。なぜなら一番になってもだれも『ありがとう』とは言ってくれません。オンリーワンは全員がなれます。それは人から認められたり、ほめられたりすることですから、人と競争しなくても、だれでもなれます。今日からすぐに、今からでもなれます。オンリーワンになることは価値(かち)あることです。SMAPのオンリーワンの応えん歌で『世界で1つだけの花』という歌がありますね。人と比べるのではなく、自分が一番良いかがやきのある生き方をすれば、それが幸せなんだということです」

 

●夢と笑顔とありがとう

 そのオンリーワンになれるヒケツは何か。

 「それは○○名人と言われる人になることです。これだけはだれにも負けないというのを1つだけ考えてください。元気な声を出せるだけでオンリーワンになれます。おそうじをさせたらだれにも負けない。百人いれば百通りのオンリーワンができます。なんでもいいんです。ありがとうというだけでも、ありがとう名人になります。そして自信がついてきます。すると人が集まってきます。たくさんの人が協力してくれると、なんでもできるようになります」

 オンリーワンがいつかナンバーワンになることもある。たとえに出たのが豊臣秀吉の話だ。農家に生まれた豊臣秀吉は、織田信長のぞうり係りをしていた。そのとき、いつでも温かいぞうりを出せるように(ふところ)に入れて温めていた。その心づかいのオンリーワンが認められて、ナンバーワンにもなれたのだ。オンリーワンにもなれない人はナンバーワンはむずかしい。

 

「それでは本当のナンバーワンはどんな人のことを言うのでしょうか。それは一番人を幸せにできる人が本当のナンバーワンです。もしナンバーワンを目指すのだったら、幸せにする人の数のナンバーワンを目指してください。みなさんはえらい人より素敵(すてき)なひとになってほしいです。素敵な人の共通点は笑顔(えがお)です。笑顔は最高の能力で、素敵な人の絶対条件(ぜったいじょうけん)です。それから『ありがとう』と言える人です。そして相手を思いやり、ほめること。ほめられると、人は幸せな気分になります。笑顔も大切です。笑顔でいれば最高に美しい人になれます。周りを明るくし、いい人だけが集まってきます。「ありがとう」とみんなが言い合っている学校にはいじめなんかありません。人に『ありがとう』と言われる人生を歩んでいきましょう。毎日、何か1つでもいいことをする習かんを身につけるのもすてきですね。明日も夢と笑顔とありがとうでガンバってほしいと思っています。これで私の話は終わります」

 

 

 

 

 

◆ 質問コーナー ◆

Q 先生にとってのオンリーワンは何ですか。

望月先生 いきなりきましたね。そうですね、私の笑顔です。病院に行っても医者はカルテを見ていて顔を見てくれな     い、顔を見てもこわい顔をして質問(しつもん)にも優(やさ)しく答えてくれないという話を聞きます。ところが私は笑顔が多い医者です。笑顔で答えていると、先生の顔を見ただけで幸せになれる、声を聞いただけで1日元気が出ましたとかん者さんはおっしゃってくれます。病院の窓(まど)口で「院長先生、今日いますか?」と聞くので、スタッフの人が「い     ますよ」と答えると、「あ、じゃあいいよ」と安心して帰っていく人もいるそうです。そこにその人がいるだけで安心する、それが私のオンリーワンです。

 

Q 病院に初めて入った時、うれしかったのは何ですか。

望月先生 それはかん者さんからの「ありがとう」の言葉ですね。今でも忘(わす)れません。初めて医者になって1日目に大学病院に行ったとき、えらい先生から「お前はかん者さんのベッドの横で、1日24時間、ねむらないでかん者さんをみていなさい、お前は機械の代わりだ。何も考えなくてもいい」と言われたんです。1日24時間、365日働き続けられたのも、その体験があったからです。でもうれしかったことは、新人の医者は先ぱいの医者とペアでかん者さんを受け持つんです。その先ぱいといっしょに病室をまわると、あるかん者さんはいつも私のほうを見てしゃべる。ある時、先ぱいが半分じょうだんでおこって「お前とまわるのはイヤだ。おれが主治(しゅじ)医だ」と言ったんです。そのときかん者さんは技術(ぎじゅつ)とか経験(けいけん)ではなく、かん者さんを思う気持ちがその人を幸せにするんだと気がついたのです。一番うれしかったのは、そのかん者さんの目とありがとうという言葉です。

 

 

Q お医者になろうと思ったきっかけは何ですか。

望月先生 それを話すとあと1日必要になるなあ。実を言うと、1つは電気の仕事がいやでいやで仕方がなかった。そしてある手術(しゅじゅつ)を遠くから見せてもらったときに、心のアンテナにピーンとひびいたのは外科というだいごみでした。外科はかん者さんの体に悪いものがあると取り出します。それはかん者さんの命(いのち)を一度はかいしてしまう。そしてまた新しい命をつくる、手術はとっただけではダメで、新しく元気になる道を、つくらねばならない。それをはかいと再生(さいせい)といいます。これが外科の最高のだいごみでした、これをやりたい!と思いました。手術は一話完結(いちわかんけつ)の物語といって、やり始めたらと中で止めることが出来ない。最後までやり通さなければならないだけでなく、そのかん者さんが幸せになれる結果を出さなければいけない。妥協(だきょう)もにげることもできない。こういう仕事をやりたかったというのが最高の動機です。

 

 

Q 先生のオンリーワンの笑顔って何ですか。

望月先生 笑顔は自然に生まれるもの、つくるものではない。例えば、お父さん、お母さんが子どもを見る顔はいつも笑顔です。そして世の中で一番すばらしい笑顔は、生まれた赤ちゃんをだいてあやしているお母さんの顔です。むしょうの愛だからです。これができるようになると、どんなことでも一流になれます。

 

Q お医者さんのなかでも、どうして胃腸の専門(せんもん)になったのですか。

望月先生 なかなか深い、いい質問だなあ。なぜ消化器かと言うと、同じガンでもとってしまえば終わりというのがあります。しかし消化器の場合はちがいます。とっただけではだめで、新たに食物や消化液の通る道をつくり直さなければならない。再生(さいせい)しなければならない。この再生の手術がなかなか難(むずか)しいのです。取るだけの手術なら80歳でもできます。ところが再生という新しい道をつくるのは1ミリ単位の手術をしなければならないので、これが大変なのです。その大変さがミリョクの1つだったんですね。(了)   

(文責=横川)