2024年度「子ども大学かまくら」第5回授業
「わくわく人工知能のお話 ― 私たちの知能とどっちがスゴイ?」
講師:田野 俊一 先生(国立大学法人電気通信大学学長)
2025年2月22日(土)午後2時から
鎌倉学園 星月ホール
(授業レポート)
本題の前に、現学長として、「電気通信大学」は総合理工大学であって、文科省による全国813大学中の位置づけで研究力、教育力ともトップクラスであることが紹介された。
人間の脳は860億個のニューロン(神経細胞)で情報処理をしている。各ニューロンでは複数のシナプスで信号入力を受け、一本の軸索から信号を出力しており、それをモデル化したのがNN。ニューロンモデル(NM)の入出力処理では単に「かけて足す」計算が行なわれる(図2)。
つぎに各NMに対し、「ある入力チャンネル値の組合せから希望する出力値が得られる」というデータセットをたくさん用意し、それらの入出力対応がうまく計算されるように各NMのパラメータを調整して学習させる。実際のNNでは多数のNMを集め階層を作り、さらに多階層化してDeep Learning(DL)を行う(図3)。これにより画像認識性能が高まりで運転支援や医療診断への活用も一気に進んだ。ただし、DL学習ではその原理から、意味を理解してはいないので誤認識の 危険性にも注意が必要である。
本を何万冊も読み込んだ人工知能はもっとスゴイ!
つぎに取り組んだのはAIに「自然言語を教え込むこと」であった。まず「長い文章の途中の単語を空欄にして、その空欄を推定させる問題」に注目したのですが、必ずしもうまくはいかなかった。そこで取り組んだのが「文章を任意の部分で切って、その後の単語を推定させる問題」で、こちらはうまくいくことがわかった。この技術の進化はTransformer、GPUなどのブレークスルーに支えられ、「大規模言語モデルLLM」を実現し、生成AIとして成功をおさめた。数万冊の世界中の言語で書かれた膨大な数の本を学習させた対話型AIのChatGPTでは、文章の要約、翻訳をはじめ、数学、国語の問題や司法試験までも解くことができる。
でも私たちの方がもっともっとスゴイ!
生成AIの知識の源泉は「人間の作ったテキスト」なので、AIは「まったく新しいテキスト」は作れないし、学習データが少ない問題では嘘が多い。
人間の知的処理には、体験モードと内省モードがあって、今のAIのように感覚的に反応するのが前者、なぜなぜ・・・と深く考えるのが後者であって、こちらの方が重要な心のはたらきである(図4)。
講演後には、講師のPCをChatGPTにオンライン接続し、算数問題への回答生成のデモも行なわれ、さらに学生からの質問コーナーも設けられた。(了)
(文責=中村和男、図=田野俊一、写真=島村國治)
Q1 先生がよく使っているAIは?
田野先生 ChatGPTです。君は何を? →(学生)マイクロソフトのCopirotです。
Q2 先生はAIを恐ろしいとおもったことはありますか?
田野先生 AIで現実世界を動かせるようになってきているが、間違えたり、悪いことをすることになるかもしれないので、使い方に注意し、倫理的な扱いが必要です。
Q3 先生の小さい頃の夢は電気通信大学の学長になることだったのですか?
田野先生 40年前から知的処理の研究をやりたくて、現在もできているのでしあわせです。長いこと日立の研究所にいたあと、管理職になりたくないので、電気通信大学で研究を続けることができました。しかしその後、気の迷いがあって、学長になってしまい後悔しています(笑い)。