2024年度(令和6年度) 第5回授業

  

  2024年度「子ども大学かまくら」第5回授業

  

 

 「わくわく人工知能のお話 ― 私たちの知能とどっちがスゴイ?」

 

講師:田野 俊一 先生(国立大学法人電気通信大学学長)

 

2025222日(土)午後2時から

鎌倉学園 星月ホール

 

 

(授業レポート)

  

本題の前に、現学長として、「電気通信大学」は総合理工大学であって、文科省による全国813大学中の位置づけで研究力、教育力ともトップクラスであることが紹介(しょうかい)された。

(図1)「ニューラルネットワーク(NN)」の映像
図1「ニューラルネットワーク(NN)」映像

 人工知能(AI)って知ってる?

 

 まず学生にスマホ、ゲーム、You Tube翻訳(ほんやく)などでAIが身近になっていることを知ってもらい、クイズ形式でAIができること/できないことを考えてもらった。

 

 

 

私たちの(のう)細胞(さいぼう)をまねた人工知能がスゴイ!

 

 AIの歴史を見ると、なぜなぜ・・・と深く考え、論理的(ろんりてき)に意味を処理(しょり)する「記号的知的処理」と感覚的な反応を確率など数値(すうち)で処理する「計算的知的処理」があり、今注目されているのは後者である。

 その計算的処理の基本原理が「ニューラルネットワーク(NN)」1)。

図2「掛けて足す」
図2「掛けて足す」

人間の(のう)860億個のニューロン(神経細胞)で情報処理をしている。各ニューロンでは複数のシナプスで信号入力を受け、一本の軸索(じくさく)から信号を出力しており、それをモデル化したのがNN。ニューロンモデル(NM)の入出力処理では単に「かけて足す」計算が行なわれる(2

(図3)Deep Learning(DL)を行う
(図3)Deep Learning(DL)を行う

つぎに各NMに対し、「ある入力チャンネル値の組合せから希望する出力値が得られる」というデータセットをたくさん用意し、それらの入出力対応がうまく計算されるように各NMのパラメータを調整して学習させる。実際のNNでは多数のNMを集め階層を作り、さらに多階層化してDeep LearningDL)を行う(3)。これにより画像認識性能が高まりで運転支援(しえん)医療(いりょう)診断(しんだん)への活用も一気に進んだ。ただし、DL学習ではその原理から、意味を理解してはいないので誤認識の 危険性にも注意が必要である。

本を何万冊も読み()んだ人工知能はもっとスゴイ!

 

 つぎに取り組んだのはAIに「自然言語を教え込むこと」であった。まず「長い文章の途中(とちゅう)の単語を空欄(くうらん)にして、その空欄を推定させる問題」に注目したのですが、必ずしもうまくはいかなかった。そこで取り組んだのが「文章を任意の部分で切って、その後の単語を推定させる問題」で、こちらはうまくいくことがわかった。この技術の進化はTransformerGPUなどのブレークスルーに支えられ、「大規模言語モデルLLM」を実現し、生成AIとして成功をおさめた。数万冊の世界中の言語で書かれた膨大(ぼうだい)な数の本を学習させた対話型AIChatGPTでは、文章の要約、翻訳をはじめ、数学、国語の問題や司法試験までも解くことができる。

 

(図4)
(図4)

でも私たちの方がもっともっとスゴイ!

生成AIの知識の源泉(げんせん)は「人間の作ったテキスト」なので、AIは「まったく新しいテキスト」は作れないし、学習データが少ない問題では(うそ)が多い。

 

人間の知的処理には、体験モードと内省モードがあって、今のAIのように感覚的に反応するのが前者、なぜなぜ・・・と深く考えるのが後者であって、こちらの方が重要な心のはたらきである(4)。

講演後には、講師のPCChatGPTにオンライン接続し、算数問題への回答生成のデモも行なわれ、さらに学生からの質問コーナーも設けられた。(了)

(文責=中村和男、図=田野俊一、写真=島村國治)

 

 

Q1 先生がよく使っているAIは?

田野先生 ChatGPTです。君は何を? →(学生)マイクロソフトのCopirotです。

Q2 先生はAI(おそ)ろしいとおもったことはありますか?

田野先生 AIで現実世界を動かせるようになってきているが、間違(まちが)えたり、悪いことをすることになるかもしれないので、使い方に注意し、倫理的(りんりてき)(あつ)いが必要です。

Q3 先生の小さい(ころ)の夢は電気通信大学の学長になることだったのですか?

 

田野先生 40年前から知的処理の研究をやりたくて、現在もできているのでしあわせです。長いこと日立の研究所にいたあと、管理職になりたくないので、電気通信大学で研究を続けることができました。しかしその後、気の迷いがあって、学長になってしまい後悔(こうかい)しています(笑い)。