今まで友達と学校で一緒に学び、遊び、昼食を食べ、話をすることは当たり前のことだと思っていたと思います。ところが昨年の春から、コロナウィルスが蔓延し、今まで当たり前にやっていたことが大きく制限され、友達と一緒にいろいろな活動をすることが簡単には出来なくなっています。ただ現状を嘆いていても仕方ありません。この機会にみなさんにやっておいてほしい、お薦めのおうち時間の使い方を書いてみたいと思います。
l コロナ禍の今だからじっくり考える癖をつけよう。
まず、家にいる時間が多くなっていると思います。これをチャンスと捉え、しっかりと自分で考えぬく練習をしてみてはどうでしょうか?
20世紀の最も偉大な物理学者とされるアインシュタインは「相対性理論[1] 」を考えたときに思考実験[2] という方法を用いました。これは頭でひたすら考えぬくという方法です。相対性理論より以前からあった「ニュートン力学」では物体の速度は足し算で計算されるとされています [3] (以下の光速の説明も[3]をベースにしています)。すなわちニュートン力学によれば、動いている人が投げたボールの速さは、動いている人の速さとボールの速さを足し合わせた速さになります。大谷選手が時速240㎞の新幹線の中で進行方向に時速160㎞の球を投げたら、その球は地上で見ている人にとっては時速400㎞の剛速球に見えるわけです。
それでは時速9億kmで動いているロケットに乗ったあなたが懐中電灯で前を照らせばその光の速さは9億㎞+光速(時速約11億㎞)で時速20億㎞となるのでしょうか? ところが古典的物理学のもう一つの柱である「マクスウェル電磁気学」によれば光速は時速約11億kmで一定であることが説明されています。これに従うと、あなたの懐中電灯の光は地上からみてもロケットの中から見ても同じ時速11億㎞にならなければなりません。
このようにニュートン力学とマクスウェル電磁気学では光速に関して矛盾が生じてしまいます。そこで科学者たちは「物体の速さが光よりも十分に遅い時にはニュートン力学により速度を足し合わせて計算することにより近似的に正しい計算が出来るが、物体の速さが光速に近づいたときにはこの近似では計算できない」という風に考えました。そのような中、アインシュタインは光速で動く物体から見た時間や空間が変化することで光速が一定になることを示しました。これが「特殊相対性理論」です。時間や空間は絶対であるというそれまでの概念を根本から変える大発見でした。
アインシュタインは思考実験を通して考えぬき、そこから新しい概念を見出していきました。みなさんもおうち時間を有効に使い、いろいろなことについて考えてみてはどうでしょうか? 幸いにして 現在はインターネットのおかげで検索により、ほとんど何でも調べることが出来ますが、正しい情報か、信頼できる情報か、意味のある情報かは分かりません。調べた結果を理解して、自分の必要な情報として取り出すためにはしっかりとした判断力・知識が必要です。どんどん調べ、それについてとことん考えぬきましょう。そしてそれらの情報が有用な情報かどうかを判断できる力を身に着けてもらえればと思います。
l ロボット・AI(人工知能)はどこまで進んでいるのでしょうか?
人と人との接触が難しい時代となり、可能なところではロボットやAIのような機械で人を置き換えられないかという取り組みが増えています。このような中、現状ではロボットやAIはどこまで進んでいるのでしょうか? その一端を見ていきます。
ØBoston DynamicsのAtlasのパルクールはどこまで出来ているのか?
パルクールとは、障害物のあるコースを、走る・跳ぶ・登るといった移動所作を活かして、ダイナミックに飛びまわるスポーツや動作鍛錬のことです。人型ロボットBoston Dynamics社のAtlasがさらに運動能力を増してパルクールに挑み続けています [4] 。ここではNGシーンなども紹介されていますが、斜めの台を飛んで行ったり、台上からバク転したりとすごい機能ですね。さて、次のようなことを考えて下さい。
*自分の学校に連れてきて、運動会に参加できるでしょうか?
*体育館に連れてきて模範演技をしてもらえるでしょうか?
たぶん、今のままでは出来ません。Atlasは台がどのように配置されているということを自身で認識して動いているわけではないからです。Atlasを動かすためには事前に環境を設定し、その環境にあったプログラムを作成しておく必要があるのです。
いろいろな技術についての発表がテレビや新聞、ネットニュースなどを使って行われます。発表だけを見ていると、巷にロボットがあふれ、何事もAIが決めてしまうような世の中が実現できてしまうように見えるのですが、実際にはそのようにはなっていません。身近に見るロボットといえばお掃除ロボットくらいでしょうか? 技術の発表においては出来たことを発表することが多く、出来ていないことが何かを明確にしていないことが多いです。それを気に留めてこれらの発表を見て考えるようにすると、現在、どこまでの研究が出来ているのかが見えてくるかと思います。単に情報を受け止めるだけではなく、受けた情報についてしっかり考えられるようになるといいですね。
Ø AIを使ってみよう。
みなさんはSiriやGoogle Home、Alexaなどを使っているでしょうか? 話しかけるだけでいろんな情報を教えてくれるのはとても便利ですよね。音声認識や情報検索にAIを使い、このように便利な機器が出来たのです。
毎日のように使うようになったAIですが、インターネットの発展とAIの開発者たちのおかげで最新のAIを自分で試してみることも出来ます。そのような例の1つとしてTensorflow.js[5] をご紹介します。TensorflowはGoogleが開発し、オープンソース(ソフトウェアのプログラムのテキストを公開すること)で公開している機械学習用ソフトウェアです。現在のAIの発展を支えるディープラーニング[6] にも対応しています。Tensorflow.jsはTensorflowをブラウザ上で簡単に使えるようにしたソフトウェアですので、みなさんもPCを使って実験してみることが出来ます。
[5] のサイトではデモやモデルを試すことが出来るようになっていますのでいろいろ見てください。ここではモデルから1つ紹介しておきます。次の図は[5] のサイトのモデルを選択したところです。その中の姿勢検出をクリックしてみてください。
すると黒い背景の英語のサイトが開きます。ここでくじけず、少し下の方へスクロールダウンします。すると次の図のようにPose Detection(姿勢検出)と書かれた部分が現れ、Demoという青い字が3つ見えます。そのうちのどれか(ここでは一番上のDemoにします)をクリックしましょう。
※Pose Detectionのサイト表示で「日本語翻訳」を選択すると↓右の様に日本語に表示されます
すると少し時間がかかりますが、次のような画面が現れます(カメラの使用許可を求めてきたときには了解して下さい)。人の目と耳、鼻の位置、および骨格が検出されていることが分かります。
姿勢検出技術は人の動作を認識するために使われ、ジェスチャを理解する場面などで使われています。私達は他人の動作を見て何気なくその姿勢や顔つきをとらえ、さらにその人が誰なのか、何をしているのか、どんな気持ちでいるのかなどを頭でとらえているのですが、機械の目や神経や知能でそれを行うのは大変なことでした。しかし最先端の技術によりこのようなことも出来るようになってきています。それを簡単に自分で確かめられるすごい世の中になっていますね。
このようなサイトも積極的に利用し、単にAIってすごいなと思うだけではなく、どこまで使えるのかを自分で確かめたり、どのような場面で使える技術なのかを考えたりして下さい。
せっかくのおうち時間に、みなさんにやってみてもらいたいことを書いてみました。インターネット環境があれば、世界のいろいろなことを知ることが出来ます。いろいろなことを知り、それについてしっかり考えればみなさんのこれからやるべきことも見えてきます。いろいろと検索して、最先端技術に触れ、しっかり考え、これからの世界を良くして行きましょう!
ロボットやAI関連のリンクを作ったのでそちらも見てください [7] 。
参考資料
[1] 中学数学からはじめる相対性理論:https://www.youtube.com/watch?v=voFHToRM4xI (参照2021/8/25)
[2] アインシュタインはいかにして相対性理論を発想したか?: http://idea-soken.com/albert-einstein(参照2021/8/25)
[3] 大栗博司:重力とは何か、幻冬舎新書、2012、pp.63 - 73
[4] あまり見ることがないBoston Dynamics人型ロボAtlasのずっこけNGシーン、失敗が成功を生む: https://jp.techcrunch.com/2021/08/18/2021-08-17-atlas-slugged/ (参照2021/8/25)
(Boston Dynamicsのホームページは https://www.bostondynamics.com/atlas)
[5] Tensorflow.js: https://www.tensorflow.org/js/models?hl=ja (参照2021/8/25)
[6] 初心者でもわかるディープラーニング - 基礎知識からAIとの違い、導入プロセスまで細かく解説: https://ainow.ai/2019/08/06/174245/ (参照2021/8/25)
[7] 小中学生のためのロボット・人工知能リンク:https://sites.google.com/view/ozlab/home/classes/小中学生のためのロボット人工知能リンク